◆ Journal 02 / 2040年に向けて
2040年に向けて働き手が減る話は、前回書きました。今回は、その反対側の話です。お客さんのほうは、どうなるのか。
先に、この記事の見取り図を置きます。「お客さんが減る」には、二通りあります。一つは、お客さんの数そのものが減ること。人口が減り、取引先の会社が減る。もう一つは、お客さんはそこにいるのに、頼む理由がなくなること。今回書きたいのは、後のほうです。
私は、東三河の中小企業でAIの導入や活用を支援する仕事をしています。その中で、税理士の方、何人かと話す機会がありました。別々の場で、別々の方から、同じ趣旨の言葉を聞きました。「AIが会計処理をしてくれるようになるから、これから税理士の必要性は減ってくる」。ご自身の仕事の話を、嘆くふうでも、危機感をあおるふうでもなく、見えている事実として。
この言葉が、2040年のお客さんを考えるうえでいちばん効いてくる。そう思っています。まず数字で追える一つ目の減り方から、順を追って書きます。
東三河広域連合の推計では、東三河の高齢化率は2020年の27.2%から上がり続け、2039年には3人に1人が65歳以上になります。高齢者の人数そのものは2041年にピークを迎えて減り始めるのですが、若い世代の減り方のほうが大きい。だから高齢化はその後も進むのです。
お客さんが個人の会社なら、この数字はそのまま客層の話です。来る人の年齢が変わり、来る人の数が減る。そして、お客さんが会社の会社にも、同じことが別の形で起きます。取引先そのものが無くなるという形です。
帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」より。全国約27万社を対象。後継者が「いない」または「未定」の企業は13.8万社。バーは100%を上限に描画。
後継者不在率は7年続けて下がっていて、これは良いニュースです。それでも2社に1社は、社長の次が決まっていません。2040年は今から14年後。今50代の社長は60代の後半に入ります。取引先の半分に次の人がいないという状態は、そのまま「今の取引先の半分は2040年にはいないかもしれない」と読めます。
ここまでが、一つ目の減り方です。人口が減り、会社が減り、その結果としてお客さんの数が減る。数字で追えるので、備えの話もしやすい。世の中で「お客さんが減る」と言われるとき、指しているのはたいていこちらです。
もう一つ、よく引かれる数字があります。野村総合研究所が2015年に出した推計で、日本の労働人口の49%が就いている仕事は、10〜20年後にAIやロボットで代替できる可能性が高い、というものです。代替されやすい100の職業には「経理事務員」「会計監査係員」「一般事務員」が入っています。一方で代替されにくい100の職業に並ぶのは「経営者」「経営コンサルタント」「中小企業診断士」。
この推計は「仕事が無くなる」という文脈で語られてきました。働き手の側の話として、です。ところが、お客さんの側から見ると別の意味になります。経理の仕事をAIができるなら、これまで経理を外に頼んでいた会社は、頼む理由が一つ減る。会社の数は減っていないのに、会計事務所から見ればお客さんが一人減ったことになります。
これが二つ目の減り方です。お客さんはいるのに、頼む理由がなくなる。人口の推計表にも、後継者の調査にも、この減り方は載っていません。
冒頭の話に戻ります。税理士の方、何人かから聞いた言葉です。一人が言ったのなら、その人の考えで済む。別々の人から同じ趣旨の言葉が出てくると、業界の中ではもう共有されている見方なのだと分かります。
税理士にとってのお客さんは、顧問先の会社です。顧問先の数は、東三河の会社の数が減れば減る。これは一つ目の減り方で、税理士の方たちが言っていたのはこちらではありませんでした。顧問先がまだそこにあっても、会計処理をAIがやるようになれば、税理士に頼む理由のほうが先に薄くなる。二つ目の減り方の話です。
お客さんが減る、は二通りある
▲ 左は数字で追えます。右は、その仕事をしている本人にしか見えません。
私が驚いたのは、内容そのものではありません。税理士の仕事がAIに寄っていく話は、業界の外でもよく言われていることなので。驚いたのは、それを当の税理士たちが、自分の口で、淡々と言ったことでした。
しかも、言うだけではありませんでした。ある事務所では、会計処理のうち数字を書き写す作業と、合っているかを突き合わせる作業をすでにAIに渡し、どう処理するかの判断は人が持つと線を引いていました。減ると言った本人たちが、いちばん先に減る側の仕事を手放していたのです。
なぜ、自分の仕事が減ると言い切れたのか。業界の予測を読んだからではないと思っています。私が話を聞いた範囲では、言い切った方には共通点がありました。ご自身が、日常的にAIを使っていたことです。
聞く、見る、動く
▲ 01から03へ進む間に、02があるかどうかで分かれます。
現場で見ていて、こう考えています
「お客さんが減る」と聞いている会社は多い。自分の手で、減る場面を見た会社は少ない。
AIが会計処理をできることは、記事にもニュースにも書いてあります。それでも、記事で読んだ「できる」と、自分の手元の数字でAIが実際に処理して合っていたのを見た「できる」は、同じ言葉でも重さが違います。後者を持っている人は、減ると言っても声が揺れない。予測ではなく観察だからです。
見えているのに動けない会社を、私は何社も見てきました。今のお客さんが減ることは分かっている。営業先を変える話も、社内で出たことがある。でも変わらない。減ると「聞いている」だけだと、今日の仕事のほうが常に重い。減る場面を自分で見ていないので、どこから手を付ければいいかも決まらないのです。
税理士の方たちは、逆でした。減る場面を先に見ていたから、お客さんを追いかける前に、頼まれる理由のほうを作り替える側に回れた。数字を写す仕事はAIに渡す。その代わり、どう処理するかを決める仕事、お客さんの会社の事情を知ったうえで判断する仕事に、人の時間を寄せる。減るのは「税理士」ではなく「会計処理」だと、切り分けができていたのだと思います。
税理士の話に限りません。同じ構造は、いろいろな業種にあります。
税理士業界そのものを見ると、日本税理士会連合会の第7回実態調査(2024年4月実施)で、開業税理士の62.4%が60代以上、20代と30代は6.6%でした。担い手が減る側でもあり、頼まれる理由が変わる側でもある。両方が同時に来る業界です。
卸売なら、メーカーと小売が直接つながったとき、間に立つ理由が問われる。印刷や事務代行は、作業がAIやソフトで済むようになれば、頼む理由が薄くなります。製造業でも、「製品」を売っているつもりが、お客さんが買っていたのは「その製品で解決していた困りごと」で、困りごとのほうが先に消えることがあります。
どの業種がどう変わるかは、私には断定できません。ただ、共通しているのは、減るのが人数か理由かで、やることが変わることです。人数が減るなら、新しいお客さんを探す。理由が減るなら、頼まれる理由を作り替える。前者は営業の話で、後者は商品の話です。ここを取り違えると、営業を強化しても止まりません。
2040年は、この二つが同時に来る年だと思っています。人が減り、会社が減り、そして頼む理由が変わる。人口の推計は用意されていますが、頼む理由のほうは、その仕事をしている本人が自分で見に行くしかありません。
最後に、持ち帰っていただきたい問いを3つ置きます。答えを送っていただく必要はありません。
3つ目の問いが、いちばん大事だと思っています。
税理士の方たちが言い切れたのは、答えを知っていたからではありません。減る場面を自分の手で先に見ていたから。見えているだけでは、今日の仕事に負けるのです。
東三河ミライ会議2040の第1回では、金網をつくる会社の2040年を、業種の違う経営者で考えます。この会社の製品の約7割は土木建築の資材で、主なお客さんは公共工事。2040年、この会社のお客さんは誰か。他社のお客さんを本気で考えると、自社のお客さんが誰なのかも、見えてきます。
Event
この連載について
東三河ミライ会議2040では、2040年に向けて世の中がどう動いていくのかを、毎週木曜日に1本ずつ書いていきます。
統計をまとめるだけの記事は書きません。調べれば誰でも手に入るものだからです。東三河の中小企業の現場で実際に見聞きしたことを起点に、よく語られている話とのズレを書きます。前回は「働き手が2割減ると、AIも使えなくなるかもしれません」でした。
この記事で使った数字の出典