◆ Journal 01 / 2040年に向けて

働き手が2割減ると
AIも使えなくなるかもしれません

2026.09.17 志水康太(合同会社ICHI.) 全文8分 / 要点は下の3行で30秒
この記事の3行
  1. 2040年、東三河の働き手は約2割減ります。足りない分はAIで補えばいい、と言われています
  2. ただ、本当に足りないのは作業する人ではありません。自社と似た場面でAIを使って、先に失敗しておいた人のほうです
  3. その人がいないと、AIは最初の1回で止まります。そして人が減ると試す余裕も消えるので、その経験を積む人が社内に育たなくなります

2040年、東三河の働き手は約2割減ります。人手が減るならAIに任せればいい。そう言われますし、自然な考え方だと思います。

ただ、順番が逆かもしれないと思うようになった出来事があります。

私は、東三河の中小企業でAIの導入や活用を支援する仕事をしています。最初にやることはいつも同じで、その会社の誰がどんな仕事をしているかを書き出してもらいます。AIに任せられる仕事を探すには今の仕事が見えていないと始まらないからで、これを「業務の棚卸し」と呼んでいます。

その棚卸しのための資料を作って、2つの会社にお送りしました。送ったものは完全に同じなのに、片方からは3週間、1件も返ってこず、もう片方からは5人全員から22件の回答が返ってきました。

この差が、2040年の東三河を考えるうえでいちばん効いてくると思っています。順を追って書きます。

2040年、東三河の働き手は約2割減ります

リクルートワークス研究所の推計では、2040年に日本で足りなくなる働き手は1,100万人余りとされています。不足は職種によって偏り、生活を支える仕事ほど深刻です。

2040年 / 職種別の労働供給不足率
介護サービス25.3%
商品販売24.8%
ドライバー24.2%
建設22.0%
医療従事者17.5%

リクルートワークス研究所「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」(2023年3月)より。不足率=2040年の労働需要に対して供給が足りない割合。バーは40%を上限に描画。

そして地域差があります。同研究所の都道府県別シミュレーションでは、2040年に生活維持サービスの担い手が足りるのは千葉・東京・神奈川・大阪の4都府県だけで、残る43道府県はすべて不足し、うち37道府県は不足率が2割を超えます。愛知県は29.6%の不足です。東三河に限れば、2040年の生産年齢人口(15〜64歳)は今より約2割減る見込みで、これは全国平均(約17%減)より速いペースです。

この数字を見たとき、多くの人が思い浮かべるのは「現場で手を動かす人が足りなくなる」という絵だと思います。実際その通りなのですが、それだけではありません。減るのは作業する人だけでなく、その隣にいた人も同じように減っていく。この話は後半でもう一度出てきます。

足りない分はAIで補えばいい、と言われます

人手が減るならAIに任せればいい。これはとても自然な発想で、実際その方向に進んでいます。ChatGPTに代表される「生成AI」を業務で使う会社は、この2〜3年で目に見えて増えました。

企業規模別 / 生成AIを業務で活用している割合
大企業 46.5%
中小企業 32.4%
小規模企業 28.0%

帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」より。全国23,349社を対象に10,312社が回答(回答率44.2%)。全体では34.5%が業務で活用。従業員1,000人超では63.6%、5人以下では29.6%。

規模が小さいほど使っていません。一方で、使っている会社の手応えは、規模を問わず良いのです。

86.7%

生成AIを活用している企業のうち、業務への効果が出ていると回答した割合(同調査)

使えば9割近くが効果を感じていて、ツールは無料でも触れるほど安い。だとすれば、あとは慣れの問題で2040年までには追いつくだろう、と考えたくなります。

同じ調査で、企業が挙げた懸念の2番目が「専門人材・ノウハウ不足」でした。だから話はいつも「教育が要る」「もっと簡単なツールが要る」に着地します。

ところが、同じ資料を送って結果が正反対でした

冒頭の話に戻ります。どちらも東三河の会社で、送った資料も送り方も同じでした。違っていたのは、受け取った側の社内の状態です。

同じ資料でも結果は正反対

A社
  • 3週間ゼロ
  • 追加連絡も無反応
  • 触った人が社内に不在
B社
  • 5人全員が回答
  • 22件の詳しい内容
  • 触った人が社内にいた

▲ 資料も送り方も同じ。違ったのは、受け取った側にAIを触った経験のある人がいたかどうかでした。

A社には、その時点でAIを触ったことのある人が社内にまだ一人もいませんでした。B社には、すでにAIを試して、うまくいかない経験も一度している人がいました。それだけの差です。やる気や能力の話ではありません。

自分の仕事を書き出すという作業は、「このうちどれをAIに頼めるか」を頭のどこかで考えながらでないと、手が進みません。一度でもAIに何かを頼んで外した経験がある人は、その当たりがつく。ない人は、真っ白な欄を前にして何を書けばいいのか判断できないまま止まります。返ってこなかったのは、資料が悪かったからでも面倒だったからでもなく、最初の1回をまだ誰も経験していなかったからだと考えています。

足りないのは、知識ではありませんでした

「専門人材・ノウハウ不足」と聞くと、知識が足りないのだ、だから学べばいい、という話になります。でも今、AIの使い方を知る手段はいくらでもあって、無料で触れますし本もYouTubeも山ほどある。知識は、たぶん足りているのです。

買えないのは3つ目だけ

01 ツール無料で触れる。もう十分に安い
02 知識本もYouTubeも山ほどある
03 AIで失敗した人これだけが、買えない

▲ ツールも知識も手に入る時代に、ひとつだけ、お金では手に入らないものが残ります。

現場で見ていて、こう考えています

自社と似た場面でAIを使って、先に失敗しておいた人が、身近にいない。

AIは聞けば必ず何かを答えますが、その答えが自分の会社で通るのかまでは判定してくれません。判定できるのは、同じところで一度つまずいて、そのあと通した人だけです。

これが無いと、何が起きるか。最初の1回で止まります。

1回試してそれらしい答えが返ってきても、それが合っているのか分からず、誰にも聞けないまま画面を閉じる。そして、2回目をやらないのです。

先ほどの86.7%という数字は、よく見ると「すでに使っている企業」の中での割合です。最初の1回で止まった人は、この分母に入っていません。効果が出ていないのではなく、効果を確かめるところまで行けていない。それが小規模企業の28.0%という数字の中身ではないかと考えています。

2040年、その人は社内で育たなくなります

ここで最初の話、働き手が2割減るという話に戻ります。

人が減ると聞いたとき、私たちは「現場で手を動かす人が足りなくなる」と考え、だから省人化のためにAIを入れよう、という順番で動く。

ただ、人が減ると、もうひとつ静かに失われるものがあります。新しいことを試す余裕です。

一人あたりの仕事が増えれば、今日中に終わらせなければならない業務が優先される。AIに何かをやらせてみて、外して、やり直す。その時間は真っ先に削られ、失敗するための余裕がいちばん先になくなります。

失敗しなければ経験は積まれないので、AIで試行錯誤した人が、社内で育たなくなる。

人が減るからAIが必要になる。なのに、人が減るからAIを使い始められる人がいなくなる。この2つは同時に起きます。

人が減る、の意味は二通り

一般論
  • 作業する人が減る
  • だからAIで補う
  • ツールが解決する
現場
  • 試す余裕が減る
  • 試行錯誤する人が減る
  • AIも使えなくなる

▲ 同じ「2割減」でも、どちらが減ると読むかで、今からやることが変わります。

AIのツールはこれからも安く賢くなり続け、2040年には今の私たちが驚くようなことが当たり前になっているはずです。とはいえ、それは全員に等しく配られるもので、安く賢くなるほどツールの性能そのものでは差がつかなくなります。

配られないものが、ひとつだけある。失敗の経験です。

これは買えませんし、本にもYouTubeにも載っていません。自社と似た場面でAIを使って一度外し、直して、通した。その記録だけが、次の誰かの1回目を助けます。冒頭の2社の差も、突き詰めればここでした。

だとすると、2040年に向けて備えるべきは、AIに詳しい人を採ることではないのかもしれません。今のうちに、社内の誰かにAIで試行錯誤しておいてもらうことのほうが、先だと思っています。

あなたの会社ではどうですか

最後に、持ち帰っていただきたい問いを3つ置きます。答えを送っていただく必要はありません。

  1. 誰かがAIを試した結果を持ってきたとき、「そこは私も間違えました」と言える人は、今の社内にいますか。
  2. その人は、自社と似た場面でAIを使って、一度失敗したことがありますか。
  3. その経験は、2040年までに社内で増えますか。それとも減りますか。

3つ目の問いが、いちばん大事だと思っています。

自社の仕事をよく知っている人はたいてい社内にいますし、AIに詳しい人も本やYouTubeである程度は代わりになる。どこにも売っていないのは、自社と似た場面でAIを使って失敗した経験だけです。

そしてこの経験は、試した回数の分しか増えません。人が減って試す余裕が消えると、増えるどころか減っていきます。

東三河ミライ会議2040は、実在する地元企業1社の2040年を、業種の違う経営者たちで考える会です。他社の未来を本気で考えると、自社の未来が見えてきます。他社の場でAIの試行錯誤を先に経験できるのは、いちばん安い失敗の仕方かもしれません。

Event

東三河ミライ会議2040 第1回

MUSASHi Innovation Lab CLUEのステージ。赤い幕の前に客席が並ぶ
日時
2026年10月8日(木)16:00〜19:00終了後30分ほど、その場で自由に話せます(任意)
会場
MUSASHi Innovation Lab CLUE豊橋駅前・ココラアベニュー3F
参加費
無料定員6〜10名
開催概要を見る(受付終了)

この連載について

東三河ミライ会議2040では、2040年に向けて世の中がどう動いていくのかを、毎週1本ずつ書いていきます。

統計をまとめるだけの記事は書きません。それは調べれば誰でも手に入るからです。東三河の中小企業の現場で実際に見聞きしたことを起点に、よく語られている話とのズレを書きます。

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